執筆:2026年9月9日

ポケモンカードの値下がりを見て、「ポケカバブルが崩壊した」「もう市場は終わりなのか」と不安に感じる方もいると思います。
しかし、一部のカードがピークから値下がりしていることと、ポケモンカードの市場全体が縮小していることは、同じではありません。
筆者は、最近の相場を見るうえで、「市場崩壊」という言葉だけでは捉えきれないと考えています。注目したいのは、価格上昇を支えていた需要の中身と、その後に市場へ出てくる商品の量です。
この記事では、市場統計と個別カードの価格を区別しながら、再販・PSA鑑定・コレクション需要が相場にどう関わるのかを整理します。個別カードの最新価格を網羅した相場速報ではなく、価格変動の背景を考える考察記事です。
カード価格の下落と、市場の縮小は別の話
日本玩具協会によると、2025年度の国内「カードゲーム・トレーディングカード」市場は3,384億円となり、前年度から359億円拡大しました。同協会は、ポケモンカードゲームが前年度から大きく売り上げを伸ばしたことも、市場拡大の要因に挙げています。
ただし、この数字はメーカー希望小売価格ベースの市場規模です。ポケカだけの数字ではなく、中古シングルやPSA鑑定品の二次流通価格を示すものでもありません。対象期間も2025年4月〜2026年3月であり、9月現在の動きをそのまま表してはいません。出典:日本玩具協会「2025年度玩具市場規模調査」
ここから分かるのは、少なくとも「カード価格が下がったから、トレカ市場全体も縮小している」とは言えないということです。
新商品の売れ行きが伸びる一方で、一部の中古カードの価格が下がることはあり得ます。多くの商品が開封されれば、そこから出たシングルカードの供給も増えるためです。
見るべき数字は、次のように分ける必要があります。
| 見る対象 | 分かること | それだけでは分からないこと |
|---|---|---|
| 新品市場の売上規模 | 新商品の販売の広がり | 個別カードの値上がり・値下がり |
| シングルの成約価格 | その条件で実際に取引された価格 | 市場全体の規模 |
| 店舗の買取価格 | 店舗が仕入れたい価格 | 必ずその価格で買い取れる数量や期間 |
| PSAの鑑定枚数 | グレード別の鑑定記録 | 現在売りに出ている枚数 |
販売チャネルが増えても、すべてのカードが上がるわけではない
トレカを購入する場には、カードショップや通販、フリマに加え、ライブ配信を通じた販売などがあります。
販売の接点が広がれば、新たにカードを知り、購入する人が増える可能性があります。ただし、売り場の数と、特定のカードをその価格で欲しい人の数は別です。
また、事業者が在庫を仕入れる需要と、コレクターが長く保有するために購入する需要も、区別して考えたいところです。事業者の仕入れたカードは、その後再び販売されます。途中の売買が活発でも、最終的な購入者の需要が同じ勢いで増えているとは限りません。
広告やライブ配信を目にする機会が増えたことは、市場への関心を考える材料になります。しかし、それだけで全カードの価格上昇を説明することはできません。
値上がりしたあとに、供給が増える仕組み
カードが注目されると、コレクション目的の購入に加え、値上がりを期待した購入や、鑑定後の販売を目的とした購入が集まる場合があります。
その一方で、商品の追加供給、保有者の売却、PSA鑑定品の返却などが重なると、同じカードの出品が増えます。買いたい人がいても、売りたい人の量を同じ価格では吸収できなければ、成約価格は下がりやすくなります。
例えば、発売直後にPSA10が少なく、高い価格が付いていたカードを考えてみましょう。その価格を見て提出する人が増え、後日PSA10の出品が増えれば、発売直後と同じ希少性では評価されなくなる可能性があります。
ここで重要なのは、「人気があるか」だけでなく、「その値段で買う人が、増えた出品を支えられるか」です。
ただし、下落理由をすべて供給増で説明するのも適切ではありません。注目が別のカードへ移る、購入意欲が弱まる、店舗が在庫を減らすなど、需要や資金の動きも関わります。
PSA枚数を見るときは、総数だけで判断しない
PSAのPopulation Reportでは、カードごとのグレード別鑑定枚数を確認できます。出典:PSA Population Report
この数字は供給を考える材料ですが、販売中の枚数ではありません。PSA10が多数あっても、保有者が売らなければ、そのすべてが売り物になるわけではないからです。
反対に、総数が少なくても、買いたい人が少なければ高値で売れるとは限りません。
筆者が相場を見るなら、鑑定枚数に加えて、一定期間の増加幅、実際の出品数、成約件数、成約価格を組み合わせます。「何枚あるか」と「どれくらい売れているか」を一緒に見ることで、需給を考えやすくなります。
新しいカードと昔のカードでは、供給の増え方が違う
追加生産・再販が行われる商品では、開封によって対象カードの総量が増える可能性があります。一方、追加供給が確認されていない過去の商品では、新しいカードとは異なる供給構造を考える必要があります。
ただし、「昔のカードだから供給は固定」と言い切ることはできません。新たに印刷されなくても、保管されていたカードの売却、未開封商品の開封、未鑑定品のPSA提出によって、購入できる枚数は増え得ます。
| 区分 | 供給が増える主な経路 | 相場を見るポイント |
|---|---|---|
| 追加供給のある新しい商品 | 再販分の開封、保有品の売却、鑑定品の返却 | 再販状況と出品増に需要が追いついているか |
| 追加供給が確認されていない過去の商品 | 保有品の売却、残存BOXの開封、未鑑定品の鑑定 | 市場に出る量と継続的な購入需要 |
| 配布が終了したプロモ | 保有者の売却、未鑑定品の鑑定 | 配布規模、状態の良い個体数、コレクション需要 |
ピカチュウやレックウザのように同じポケモンでも、カード番号、イラスト、配布方法、言語、鑑定状態が違えば別の市場です。「人気キャラクターだから」「昔のカードだから」という理由だけで、価格が維持されるとは限りません。
BOXが定価に近づくことは、シングルの価値がなくなることではない
欲しい人が通常の販売ルートで購入できるようになれば、未開封BOXを割高で買う必要性は小さくなります。十分な供給が続く場合、二次流通のプレミア価格には下押し圧力がかかると考えられます。
ただし、BOXとシングルは別々に動くだけの関係でもありません。BOXが開封されればシングルの供給が増えるため、両者はつながっています。
それでも、BOXを1箱買えば欲しいカードが必ず出るわけではありません。特定のイラストを求める需要、入手しにくさ、状態の良い個体の少なさなどによって、個別カードには価格差が生まれます。
「BOXが定価で買える」と「人気シングルも安くなる」は、必ず同時に成立するわけではないのです。
「暴落」を判断する前に確認したい5項目
大きな値下がりを見たときは、まず比較する条件を揃えることが大切です。
- 何と比べて下がったのか:最高値、先月、発売直後では意味が異なります。
- 同じカード・同じ状態か:カード番号、言語、未鑑定品とPSA10を分けます。
- 出品価格か成約価格か:売り手の希望価格と、実際に売れた価格を区別します。
- どれくらい取引されているか:少数の高額取引だけで全体を判断しません。
- 出品増と需要減のどちらが起きているか:再販、鑑定枚数の推移、在庫、成約件数を確認します。
ピークから大きく下がったという事実だけでは、「安くなったから割安」「以前の高値に戻る」とも判断できません。過去の最高値を基準にするより、現在の供給に対してどの程度の購入需要があるかを見る必要があります。
筆者の見解:一律の市場崩壊より、商品ごとの需給変化として見る
筆者は、現在のポケカ相場を考える際、すべてを「バブル崩壊」でまとめるより、商品ごとに価格が見直されている可能性を検討する方が有益だと考えています。
価格上昇の期待が先行したカードと、長く集めたい人に支えられているカードでは、需要の性質が違います。再販が続く商品と、追加供給が確認されていない商品でも、価格を動かす条件は異なります。
一方で、「本来の適正価格に戻った」と断定することもできません。適正価格に唯一の答えはなく、需要がさらに変われば、その後も価格は動くからです。
市場が広がる中で、一部商品の価格が下がることはあります。だからこそ、「ポケカ全体が上がるか、下がるか」だけでなく、誰が、どのカードを、いくらで欲しがっているのか。そして、その需要に対して、売りに出るカードがどれだけあるのかを見ていきたいと思います。


